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メモ

ジェイン・ジェイコブス『発展する地域 衰退する地域 地域が自立するための経済学』中村達也訳、2012


前半は既存経済学の諸説を吟味しながら、どれも都市国家から帝国まで国家規模を無視してごっちゃにしているとし、経済単位としての都市地域分析に向かう。

都市地域の核をなすのは「輸入置換都市」である。これはそれまで輸入していたものをイノヴェーションとインプロヴィゼーションによって自家薬篭中のものとして置換し、今度は自らの輸出品として稼得する能力をもった自前の都市とその後背地のことである。遠隔地の単なる供給地となるかあるいは自前の経済を形成できるかはこの「輸入置換都市」を形成できるかどうかにある。

書のなかばでヴェネチアの生成が輸入置換都市の例として詳述されるが、これは世界システム論の記述とも重なる。輸入置換都市にあるのは、1市場、2仕事、3移植工場、4技術、5資本、である。

帝国には、ローマ帝国/フランス型/大陸型と、英国型/海洋型があるとする。

米国サンベルトの経済構造は、軍需依存とイランなどの後進地域相手の衰退取引であるとする。日本の場合は1977年が衰退への転換点であり、補助金の増大、米国と同じく後進地域との交易増大、そして米国と同じく軍需経済の増大を見るだろうと予測。中国や旧ソ連の統治形態は古いものの再現にすぎないと見る。

末尾で梅棹忠夫の「漂流」概念が引かれる。この概念は著者のいうインプロヴィゼーションやイノヴェーション概念とも近いように見える。

国家と地域の違いについて途中引用。

「現代の国家は、ほとんど例外なく、まず血なまぐさい軍事力によって成立した。そして大部分の国家は、往々にして流血によって統一された」、「国家は、ローマ神話の鍛冶の神バルカンの申し子でもなく、使者であり治療術の保護者でもあるマーキュリーの申し子でもなく、ましてや肥沃と豊穣の母ケレスの申し子でもない。それらのごとくふるまうこともしない。実際には、国家は、軍神マルスの申し子のようにふるまい、多くの国民は、そのことのゆえに国家を崇めるのである。

 国家の神秘性は、人間の犠牲の上に成り立った強力で陰惨な魅力によるものである」336頁

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